近大生が死亡した一気飲み事件、保護責任者遺棄致死はどれぐらいの罪になるのか

 2017年12月、近畿大経済学部2年の登森勇斗さん=当時(20)=がテニスサークルの飲み会で酒を一気飲みした後に死亡し、適切な処置をしなかったとして、両親が学生6人を保護責任者遺棄致死容疑で大阪府警に告訴したことが4日、府警への取材で分かった。府警は同容疑で捜査を始めた。

 

 府警によると、告訴されたのは参加していた3年生の男子1人と、介抱役だった2年生の男子5人=いずれも学年は当時。飲み会は17年12月11日夜、大阪府東大阪市で開かれ、計11人が参加した。登森さんはビールやショットグラス20杯分のウオッカなどを、部員にはやし立てられ一気飲みした。

 

一気飲み後に死亡で告訴、大阪 両親が近大生6人を(共同通信) - Yahoo!ニュース

一気飲みをした後に死亡してしまった当時20歳の大学生が泥酔してしまった後に適切な措置などをしなかったとする保護責任者遺棄致死の容疑で、両親がその場にいた学生に対して告訴を行なったとのことです。若者が一気飲みで死亡してしまう事件は度々話題になりますね。本当にバカな話だなと思いますし、それでも誰かを悪者に仕立て上げられるほど単純な構図でも無いとは思うのですが、過去に同じような事件があったのか調べてみました。

 

保護責任者遺棄致死罪について

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「保護責任者遺棄致死罪」は、「保護責任者遺棄罪」を犯した者が、それにより人を死亡させた場合に成立する犯罪です。

 

保護責任者遺棄罪は、「老年者、幼年者、身体障害者又は病者(「要扶助者」と総称します。)を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったとき」に犯罪が成立します。

 

(1)「遺棄」とは、「要扶助者を場所的に移動させて新たな危険を作ること」と「保護しなければ生命の危険がある要扶助者を放置して立ち去ること(置き去り)」という二つの意味を含む概念です。

 

(2)「不保護」とは、「要扶助者と場所的な隔離をとらずに生存に必要な保護をしないこと」を意味します。

 

酔いつぶれた人を放置して逮捕…「保護責任者遺棄致死罪」ってどんな犯罪? - シェアしたくなる法律相談所

上記の(1)または(2)に当てはまるような行為が同容疑と見なされるようです。具体的には、以下のような事例が考えられます。

 

「要扶助者を場所的に移動させて新たな危険を作ること」:「赤ちゃんを山奥に捨てに行くこと」

 

「保護しなければ生命の危険がある要扶助者を放置して立ち去ること(置き去り)」:「赤ちゃんを家に置いたまま何日間も家に帰らないこと」

 

「要扶助者と場所的な隔離をとらずに生存に必要な保護をしないこと」:「赤ちゃんに飲食物等を与えない等世話をせずに放っておくこと」 

私も過去に「保護責任者遺棄致死」の罪名を聞いたときは、乳幼児のネグレクト(育児放棄)などと関連したものがほとんどで、成人男性が泥酔している状態にこの罪が適用されるかは疑問だったのですが、過去に同じような事例で逮捕者が出ている事件がありました。

 

過去の判例

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昨年12月、横浜市鶴見区の河川敷で当時17歳の専門学校の男子生徒に暴行した上、放置して死なせたとして、神奈川県警少年捜査課などは11日、暴行と保護責任者遺棄致死の疑いで、鶴見区に住む高校3年の少年3人=いずれも(17)=を逮捕した。 

 

少年捜査課によると、4人は中学校の同級生で、当時は一緒に橋の下で、負けると酒を飲むゲームをしていたという。その後、酒に酔って寝込んだ男子生徒を起こそうとして当初は頭をたたいたりしていたが、次第に暴行へエスカレート。男子生徒の顔を川の水面につけたり、体全体を川に突き落としては引き上げるといった暴行を繰り返すようになったという。

 

酔いつぶれた人を放置して逮捕…「保護責任者遺棄致死罪」ってどんな犯罪? - シェアしたくなる法律相談所

2014年の事件で、17歳の専門学校の男子生徒(泥酔状態)を暴行し、倒れたままの被害者に適切な措置をせずに置き去りにしたとして同容疑で逮捕されています。この場合は当然暴行も問題ですが、その後の応急措置を取らなかった点などが同容疑で逮捕される理由になっています。

 

また、2010年には、当時芸能界で活動していた押尾学氏が、マンションの部屋で合成麻薬を知人女性と共に使用し、錯乱状態だった女性を放置して死亡させたことから同容疑により逮捕されています。

一緒に合成麻薬MDMAを服用し、後に死亡した女性に適切な救命措置を取らなかったとして、警視庁捜査1課などは2010年1月4日、元俳優の押尾学容疑者(31)を保護責任者遺棄致死容疑で再逮捕した。同容疑者は、09年8月2日、六本木ヒルズの一室で、MDMAの錠剤を飲んだ知人の飲食店従業員女性(当時30)が錯乱状態に陥ったのに、自らの薬物服用が発覚するのを恐れ、女性を放置して死亡させた疑いが持たれている。押尾容疑者は09年11月にMDMAを使用したとして懲役1年6月、執行猶予5年の判決を受け、同12月7日には、知人女性にMDMAを渡したとして麻薬取締法違反(譲渡)の容疑で再び逮捕されている。

 

押尾学容疑者 保護責任者遺棄容疑で再逮捕 : J-CASTニュース

その他、お酒に関しての判例では、

ガールズバーのオーナーが酔い潰れて横になっていた未成年の女性従業員に上着をかけて寝かせていたという事例で、オーナーは「保護責任者」にあたると判断した裁判例もあります。 

 

酔いつぶれた人を放置して逮捕…「保護責任者遺棄致死罪」ってどんな犯罪? - シェアしたくなる法律相談所

 大阪市中央区東心斎橋ガールズバーで昨年2月、泥酔したアルバイトの女子高生=当時(18)=を放置して死なせたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた元経営者、阪田淳被告(28)の裁判員裁判の判決公判が31日、大阪地裁で開かれた。島田一裁判長は「女性の救急要請を怠ったが、故意に放置したとまではいえない」などとして、業務上過失致死罪を適用し、禁錮1年6月、執行猶予3年(求刑懲役3年)を言い渡した。

 

 島田裁判長は判決理由で、同店は客からドリンクをおごられると従業員の給与が加算されるシステムだったため、「被告は過度の飲酒による事故を防止する立場にあった」と指摘。さらに、女性が死亡直前、泥酔状態になったことから「女性を保護すべき責任があった」と認定した。

 

 ただ、被告が寝ている女性に上着をかけるなどした点から、「故意に放置したと認めるには疑問が残る」と判断。検察側が予備的に主張していた業務上過失致死罪を適用した。

 

バイト女子高生泥酔死 ガールズバー元経営者に有罪 大阪地裁 - 産経WEST

というものもあり、これまでの判例に目を通す限りは、「泥酔者は保護されるべき」という考えのもと判決が下されているケースが多いようです。また、道端で酔っ払って寝ている見知らぬ人を一旦介抱しようとした場合、その人物の酔いが覚めるまできちんと面倒を見ておくべきだと判断されたケースもありました。

 

今回の近大生の一件については、おそらく一緒に飲んでいた学生も泥酔状態にあったと思われ、故意に放置するなどの悪質性も認められない可能性が高いのでは無いでしょうか。したがって、起訴された場合は執行猶予付きの判決になることが予想されます。

 

死亡していた男子学生も少し雰囲気が違っていれば加害者になっていた可能性があり、お酒は非常に危険だなと感じざるを得ません。タバコよりもお酒の規制を徹底するべきでは無いのかなとも思ってしまいます。

 

 

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