仮想通貨・暗号通貨の本当の価値

PoWアルゴリズムで支えられている暗号通貨は、そのネットワークの維持、マイニングそのものが価値の源泉になっていると唱える者も多いが、暗号通貨のそもそもの価値は、書き換えや改ざんに耐性があり、中央管理者による恣意的、政治的な干渉は受けないという概念の部分にあると信じている者も多い。

近年の暗号通貨市場の加熱は投機目的による資金流入が主たるものである以上、現段階では需給バランスやPoWに用いられるコスト面が価値の根源となっていることに関しては懐疑的に受け止めるべきである。

もっとも、送金コストや分散台帳管理という仕組みそのものに価値を見出すことは可能であるが、暗号通貨が実質的にクレジットカードやその他既存の決済手段に取って代わる存在となり得るかどうかに関しては、市場が未成熟で実験段階である以上、その可能性は低いと言わざるを得ない。

一方でリップルネットワークおよびXRPのように、既存の金融の仕組みの問題を解決するために、既存のネットワーク、枠組みの中で機能するようレールを敷いているプロジェクトに対しては、民衆の期待も大きく寄せられている。

今日の暗号通貨は、世界の金融リスクを世界全体で共有することの縮図を見ていると捉えて良いだろう。取引所に対してのハッキングによる資金流出や、中身のないプロジェクトによるICOの加熱や、その頓挫の例は、ビットコインイーサリアムを基軸とした暗号通貨市場での資金移動が世界のリスクになり得る可能性を示唆しているのである。

2016年の暮れ頃から、暗号通貨界隈では「HYIP(ハイプ)」と呼ばれるポンジスキーム、ネズミ講式の詐欺的な投資が大流行した。日利1パーセントといった高配当をダシに出資者を集め、ある程度の資金が集まったら運営は逃げ出し、ウェブサイトも閉鎖。逃げ遅れた出資者にはお金は戻って来ず、先に参加した者は紹介者報酬などを受け取り、罪の意識も薄いまま数日後には類似の新しい投資詐欺を他の者に勧める始末であった。

現在、ICOや草コインと呼ばれる単価の安いコイン、あるいは配当を受けることのできる取引所トークンで同じような構図を見出すことができる。この本質を理解しない限り、多くの市場参加者は同じ失敗を繰り返すであろう。

昨今承認の可否をめぐって度々市場を賑わせているビットコインETFに関しても、CMEやCBOEといった正規の先物取引所が主導で株式市場からの資金流入を期待する界隈の論者も多いのだが、現状はまだまだリスク資産である暗号通貨にビットコインETFの導入によって新規の資金流入があっても、市場参加者および世界経済はそれを手放しで喜ぶことはできない。

人が動いて物が動き、そしてお金が動くという貿易や市場の元来の原則は、インターネット、そしてSNSの台頭によって大きく変化を遂げている真っ只中である。人々は家から一歩たりとも足を踏み出すことなく、世界中の情報に触れ、そして自らも情報を全世界に向けて発信できる環境にある。

そういった個人主導のミクロな観点で動くお金・価値の移動については、任意のタイミングで自由に、そして手軽に扱える暗号通貨の利便性は極めて高いと言えるだろう。しかし、暗号通貨市場が巨大になればなるほど、ハッキングのリスクに常に脅かされるこの市場が世界経済、世界秩序のリスクを大きく背負うようになることはまぎれもない事実である。

我々人間はすでに資本主義社会から脱却することは不可能な状況に置かれている。資本主義社会での夢や幸福を追い求め、元来自由なはずの個人の発想や行動も、実は資本主義社会にがんじがらめにされているのである。

ビットコインETFの導入によってビットコイン、ひいては暗号通貨が金融商品としての地位を確固たるものにするためには、暗号通貨が生み出している価値は現状圧倒的に少ないと言える。特に、プロダクトのベースになることを前提に開発されているプラットフォーム系通貨は、まだまだその真価を発揮していない。

ICOICOによる資金調達をゴールに行われているような現状では、我々が生きる資本主義社会で価値を持つと言えるような存在では暗号通貨は決してないのである。資本主義社会で価値を持つ存在として君臨し、その地位を金融商品として認められるような存在になるためには、市場全体でのプロダクトを生み出す能力が暗号通貨は明確に欠けている。

2018年に入ってから暗号通貨に関しての規制は日本を含めて世界中で厳しくなっており、一部では金融庁に批判めいた声も上がっている。しかし、明確に何かの価値を生み出すことができる存在でない以上、一定の監視体制や規制を設けることは、市場の健全な発展のためには欠かせない要素である。

為替取引や金の取引、株式の取引も大半が投機需要のものである。一方で市場が無価値な電子ゴミを量産し続ける現状が続くようであれば、ビットコイン、そして暗号通貨は今以上に市場での評価額が低くなってしまう可能性が高い。お金は流動性があるからこそそこに経済が生まれ発展するものだという考え方は正しいと言えるが、実需も存在する現物を担保にしているような金ETFに比べて、ビットコインETFは資金の流れ着く先が資本主義社会にとっての利益になるか全くわからない点が大きな不安要素で、承認を急ぐべきでないというのが私の見解である。

そして仮想通貨・暗号通貨の本当の価値は、資本主義社会において個人が見出す「お金の価値」が近年大きく変化しており、世界経済全体のリスクを世界全体で共有しているという事実を認識させるという点にあるように私は感じ取っている。