インフルエンサーマーケティング事業の事例と特徴、問題点と課題について

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スマートフォンとインターネット環境の普及により、YouTubeInstagramFacebookTwitterなど、個人の声がメディアとなるSNSの利用者数も加速度的に増え、そうしたSNS上で発信力のある人物を指す言葉である「インフルエンサー」というワードも一般に広く知られるようになりました。

 

そして、こういった影響力のある人物の発信力を使って商品・サービスの販促を行う「インフルエンサーマーケティング」というマーケティング手法も頻繁に用いられるようになり、今はこの手法をメインに事業を行う広告代理店なども増えています。この記事ではこのインフルエンサーマーケティングの事例や特徴などを分析した上で、問題点や課題を考察していきます。

 

 

CM・イメージキャラクターとインフルエンサーの違い

いくらネット広告市場が年々拡大しているとはいえ、地上波テレビ放送を中心とするマスメディアの影響力はまだまだ大きく、テレビCMにイメージキャラクターとして芸能人を起用する広告手法自体は廃れていません。では、従来型のCM戦略とインフルエンサーマーケティングの戦略には、どのような違いがあるのでしょうか。

 

イメージアップ・ブランディングと販促効果のギャップ

マスメディアを通じて流れる広告(TVCM、新聞広告)の多くは、「商品のイメージを植え付ける・名前を売る」という点に重きが置かれており、テレビの視聴率調査に基づいた「視聴者の年齢や性別」といった大雑把なユーザーのカテゴライズでも効果が上げられるようなものになっているケースが多いです。

 

具体的な例で言えば、最近のTVCM好感度調査で高い人気を誇っているauの「三太郎シリーズ」のCMは、サービス・プランの競争力そのものをPRするものというよりも、「auKDDI」という会社のイメージ、知名度の向上=ブランディングに最適化された内容になっています。

 

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三太郎シリーズの人気・知名度を爆発的に上げた桐谷健太氏の「海の声」のCM(2015年)などは特に顕著な例と言えるかもしれません。

 

しかしこのようなイメージアップ・ブランディングに重きを置いた広告戦略は、すでにauが大手携帯電話キャリア3社というポジションを確立しているからこそ成り立つものであり、このCMのテーマであった「ガラホの販売促進」という観点から見れば、「海の声」というテーマソングを用いた上記のCMは必ずしも最適解とは言えません。

 

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実際に「ガラホ」というワードのトレンド動向(検索数を元にしたもの)を調べてみると、ピークは2015年1月になっており、海の声CMが放送された2015年7月以降は最大でも39の数値(ピークを100としての比率)に落ち着いており、「CMのイメージと、テーマにした商品・サービスの販促」の間にはギャップがあることがわかります。それでも同CMはご存知の通り人気を博し、現在まで継続している人気シリーズになっており、auKDDIブランディングという意味では大成功のCMになったと言えます。

 

 

 

このように、TVCMなどマスメディアを用いた広告では、商品そのものの機能性を強調するよりも、15秒・30秒という限られた時間の中でブランドの知名度を上げることに最適化された広告が現時点では非常に多いような印象を受けます。また、CMで起用される出演者も一般的に知名度の高い芸能人・タレントが中心で、出演者のキャスティングとその出演者を好むユーザーの関係性などはそこまで深く意識されていないケースが多いように思えますし、マスメディアでは母体の視聴者数が多いためそれは優先事項ではないという見方も可能です。

 

販促に最適化されたインフルエンサーマーケティング

一方で、SNSを利用して行われるインフルエンサーマーケティングでは、広告からダイレクトにユーザーを引き付けることに最適化されているケースが多い印象を受けます*1。それでは、実際にてんちむ氏というYouTuberを例に、インフルエンサーマーケティングのユーザーターゲッティングと販促の事例を見ていきましょう。

 

てんちむ† (@tenchim_1119) | Twitter

てんちむCH/ tenchim - YouTube

 

てんちむ氏は学童期にNHK天才てれびくんMAXに出演されており、映画への出演なども経験されたのち、2016年からYouTubeでの動画投稿をスタートし、2018年12月現在で56万人のチャンネル登録者を獲得しています。実写動画のチャンネルに加えてゲーム実況を中心に行うチャンネルも運営されているのですが、今回は実写動画で彼女が行なっているインフルエンサーマーケティングについて考察していこうと思います。

 

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こちらは「爆乳になりました」といういかにもインパクトのあるタイトルとサムネイルの動画ですが、中身は自身がプロデュースする下着の販促動画になっています。氏のチャンネル登録者数の男女比など詳しいものはわかりませんが、男性にとっては性的な観点から視聴を助長する効果があり、「胸が小さい」というこの商品がターゲッティングしている女性に対してもしっかりリーチするような構成になっていることは一目でわかります。

 

てんちむ氏は自身の胸を強調したりする、一部にライトな性的コンテンツを含む動画をこれまでも多数アップロードしており、性的な内容に関しても歯に衣着せぬ物言いが人気の一端を担っていたということも、こういった広告を打つ上でのインフルエンサーとして活躍する要素は事前にあったと言えます。また、自分でプロデュースするアパレルブランドも立ち上げており、その売れ行きなども含めて、女性ユーザーへのリーチも十分獲得が見込めると判断されていた可能性もあります。

 

いずれにせよ、このようなインフルエンサーマーケティングでは、時間に制約のあるTVCMと比べて、動画の尺を自由に使えるという点で広告対象である商品・サービスのPRをする上でのメリットがあります。さらに、動画を視聴するのは「てんちむ」というYouTuberのファンが中心であるため、動画をしっかりと視聴してもらえる可能性が高い=広告対象のインプレッション時間が長いこと、そして彼女への「憧れ」といった要素も販売促進の観点からはプラスの要素になります。

 

  • TVCM→時間の制約があり、商品・サービスの細かい説明よりも、知名度の向上=ブランディングに重点が置かれている

 

 

 

ネイティブ広告の発展と功罪

インフルエンサーマーケティングが普及することに伴い、ネイティブ広告という従来のメディアに溶け込むような広告のモデルも効果の高い広告として利用されるケースが増えてきています。ここでは、インフルエンサーマーケティングに関連したネイティブ広告の例について見ていきたいと思います。先ほどのてんちむ氏の下着の広告動画は、自身がプロデュースしているという関係性もありましたが、次はてんちむ氏自身が直接運営とは関係のない第三者のサービスに関する広告動画です。

 

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この動画も多くの視聴者にはいわゆる「広告案件」として認知される部類のものではありますが、テーマになっている17liveというサービスの直接的な宣伝広告というよりは、てんちむ氏がこのサービスを利用して楽しんでいるシーンをあくまでも中心のコンテンツとしながら、サービスのPRを行なっている種類の広告(ネイティブ広告)動画です*2。最近は、こうした企業案件動画を作成する際の広告収入は、YouTuberとして活動するクリエイターの収入の大部分を占めているという調査結果もあります。

 

タイアップコンテンツという点を押し出すのではなく、クリエイターがナチュラルに広告対象を利用している様子を利用することで、動画の視聴時間=広告の視聴時間として視聴者にリーチすることができるため、このインフルエンサーマーケティングの手法は今一番用いられているタイプのものであるように思えます。Instagramでは、「この化粧品を使って肌がこんなに綺麗になりました」「この服とてもオシャレですよね」といった文言を添えた写真で、商品・サービスの広告が行われています

 

広告の精査と過剰演出に関する規制の必要性

このように個人の影響力を利用して商品・サービスのPRを行うマーケティング手法が普及するにつれて、広告の中身について議論されるケースも多くなってきました。これについては何度も言及していて個人的な私怨を含むのではないかという指摘もありそうですが、先日のラファエル氏による水耕栽培投資の広告動画は、その運営母体である企業に関するチェックや、サービス(技術)の質、投資に際するリスクの説明があまりにも不足しているといった点で、広告の精査が足りておらず演出も過剰な広告であったと断定ざるを得ません。

 

自身のファン層へのリーチをウリにするインフルエンサーの立場にありながら、広告の中身をきちんとチェックせず、挙げ句の果てに「台本だったから」という言い訳をしてしまうのは非常にお粗末な措置であったように思えます。ラファエル氏に関して言えば、件の広告動画に限らず、当時同じ事務所に所属していたヒカル氏らとともにVALUというサービスを利用する上で問題があったり、バイナリーオプションという日本では未認可の業者が提供する金融商品取引サービスを紹介したことがあったりという過去があったにも関わらずこのようなコンテンツを発信することについて苦言を呈さずにはいられません。

 

氏のコンテンツへの批判が続いてしまいましたが、インフルエンサーという立場を利用して、自分自身のブランドを広告戦略のメインにするという点を考えると、広告対象の精査や過剰演出の自主規制など、関係する法律と照らし合わせて問題の無い範囲でコンテンツを発信しなければ、自分自身の首を締める結果を招いてしまうことは明らかです。そうなれば「自己責任だろう」という声も聞こえてきそうですが、投資・投機関連のコンテンツはデリケートなものであるため、安易に収益性や「初心者でも簡単にできる」といった点を強調するものはリスクに関する言及が不足しているものとして規制が必要であるように思います。

 

これらの問題は「個人がメディアとして機能する時代」になったからこそ生じているものであり、実際のところ怪しい投資関連の広告費は一般的な広告と比べると単価が高い場合が多いため自身のビジネスとしてこれらの広告に手を出してしまうインフルエンサーも多くいます。その先でポンジスキームや投資まがい商法が行われていても、現行法においてはインフルエンサー自身に直接罪は無いのかもしれませんが、リスク説明などを怠ればその限りではありません。

 

今後はエンタメよりもビジネスに重きを置いたYouTubeチャンネルなども増えていきそうですし、プラットフォームの運営側には早急な対策を望む限りです。

 

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*1:ただし、最近はYouTubeをメディアとするYouTuberのインフルエンサーマーケティング手法もTVCMのものと近くなってきているケースも多々あり、特にチャンネル登録者が多いYouTuberにはその傾向が強く見受けられる。

*2:このようなマーケティング手法は「ステルスマーケティングステマ」と混同されることも多々あるが、あくまでもてんちむ氏が自身のコンテンツとする上で面白くなるような演出・編集を加え、なおかつ動画概要欄でも同サービスについて言及されている点があるため、ステマというよりもネイティブ広告の範疇にあるというのが個人的な見解である。